« ベルリンシュターツオパー ヴェルディ「運命の力」 | トップページ | サカリ・オラモ指揮ベルリンフィルハーモニー管弦楽団演奏会 »

2006年6月10日 (土)

ベルリンシュターツオパー ヴェルディ「椿姫」C・シェーファー主演

松岡究です。もう絶句!余りにも素晴らしくて言葉がありません。・・・・・・ない頭を振り絞って書いてみます。(誰です?ない頭じゃなくてない髪なんていってる人は!)

演目:ヴェルディ 「椿姫」

ヴィオレッタ:クリスティーネ・シェーファー

アルフレード:サイミル・ピルグ

ジェルモン:ゼリコ・ルチーク   他

指揮:パオロ・アッリヴァベーニ

演出:ペーター・ムスバッハ

客席も舞台も真っ暗になると、ステージの向こうにガイスト(霊)のような影が見えます。そうすると前奏曲が始まります。その影は前奏曲の間中ずっと形がはっきりしません。そして前奏曲が終わろうとするころ、それがヴィオレッタであることがわかります。第一幕が始まります。しかしヴィオレッタ以外誰も出てきません。あの合唱は舞台奥で歌われます。そしてガストンだのドゥフォールだの後で合唱も出てきますが、皆喪服をまとったように黒ずくめ。(ヴィオレッタだけが白鳥のように真っ白なドレスを着ています。)そしてダンスもないし、楽しげな表情も見えない。乾杯の歌では華やかな社交場も出てきません。皆動きはスローで楽しそうな様子も皆目ありません。

あの大アリアを歌った後、そのまま2幕へ。舞台は全く変わらずヴィオレッタは倒れています。この1場をやった後もそのままフローラ邸の2場へ。ここも舞台は変わらず、ツィゴイナーの場面もマタドールの場面もカードの場面もヴィオレッタにしてみれば全部楽しくない、単なる過ぎ去った騒々しい過去なんですね。

休憩後3幕。1幕と全く同じように前奏曲の間ずっとガイストがボーっと見えます。そして舞台正面に崩れるように座ります。ここでアルフレードとの「パリを離れて」も一瞬肩に触れたくらいで、基本的にはヴィオレッタは一人。アルフレードはヴィオレッタの魂を探すように上を見上げて嘆き悲しみます。ジェルモンが許しを請いに出てくるとヴィオレッタはすっと立ち上がって2人を上から見るように歌い始めます。そうです、まるで魂が体から離脱して見ている様に歌うんです。

ムスバッハの演出は最初からヴィオレッタの魂が過去を思い返し、数々の場面が如何に空しいものであるかを示した物であると思います。2幕のアルフレードとの束の間の愛、そしてジェルモンとのやり取り、この部分だけが暗い舞台の中でアクティブに描かれていたことを考えるとそうに違いないと思うのです。

余りにも悲しく、孤独なヴィオレッタ。そしてモノトーンではあるけれど美しい舞台、照明の妙技。こんな舞台があるなんて信じられません。

乱暴かもしれないですが、ムスバッハはこのオペラを「白鳥の歌」としてとらえていたということも出来るかもしれません。

すみません。余りにも衝撃が大きすぎて言葉に出来ません。

音楽は主役の3人が本当に素晴らしい。まずジェルモンの「プロヴァンスの陸と海」は今までこんなに感情豊かに音楽的にも完璧な歌を聴いたことがありません。アルフレードも一瞬喉に入った部分はありましたが、素晴らしいテノール。そしてなんと言ってもシェーファーが圧倒的!「あ~そはかの人か、花から花へ」「3幕のアリエッタ」がこんなに陰影の濃い歌だったなんて、完全に打ちのめされました。ピアノの使い方が絶妙で、どうしてここでそのルバートがあるのかがいちいち良くわかります。声は想像していた以上にダークで驚きましたが、この演出にはぴったり。ムスバッハはシェーファーの為に演出したのかなあと思えるくらい。

指揮のアッレヴァベーニも素晴らしい。彼はよく演出のコンセプトを理解し、常に室内楽的なアプローチでこの演出にぴったりと寄り添うような指揮。「ムジークテアター」がうまく行くとここまでの舞台を作れるのかと改めて思い知らされた感じですね。

ベルリンに来て数々のオペラと演奏会を聞いてきましたが、間違いなく一番でしょう。

PS.コーミッシェオパーの「椿姫」も素晴らしい演出(ハリー・クプファー)です。ベルリンに素晴らしい2つの「椿姫」あり。実はドイツオペラにもゲッツ・フリードリッヒ演出の「椿姫」がありますがまだ見ていません。来シーズン見ようと思います。

劇場を出たのは10時5分前。まだ西の空は明るく夕焼けが綺麗でした。そしてWMでドイツが勝ったということで、国旗を持って何か吼えながら歩くたくさんの若者、また国旗をつけてクラクションを鳴らしながら走る車。このギャップ、何とかしてほしいなあと思いながら帰途に着きました。

    hakaru matsuoka

|

« ベルリンシュターツオパー ヴェルディ「運命の力」 | トップページ | サカリ・オラモ指揮ベルリンフィルハーモニー管弦楽団演奏会 »

コメント

いやああ 読んだだけでも衝撃です。しかも椿姫もまともにみたこともないのに。俺の大好きな(といってもルルのビデオ見ただけですが)シェーファーが演じたとなるとさらに衝撃というか垂涎です。
彼女にはまさにぴったりだったんじゃないかと確信します。  これビデオ化されたらいいのに!

投稿: motolion | 2006年6月16日 (金) 00時30分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ベルリンシュターツオパー ヴェルディ「運命の力」 | トップページ | サカリ・オラモ指揮ベルリンフィルハーモニー管弦楽団演奏会 »