ベルリンドイチェオパー「夢遊病の女」
松岡究です。今日はドイチェオパーでベッリーニの「夢遊病の女」を見ました。このプロダクションは先月の22日にプレミエを出した物です。配役はアミーナがシンツィア・フォルテ、エルヴィーノがアントニーノ・シラグーサ、ロドルフォ伯爵がアルテュン・コチュニアン、テレサがスザンネ・クロイシュ、リーサがアインホア・ガルメンディア他。指揮はダニエル・オーレン、演出はジョン・デュー。
こういうオペラははっきり言ってやりたくないですね。筋書きは稚拙で笑ってしまうほどだし、ベッリーニの音楽は脆弱で、そのオーケストレーションはよほどショパンのピアノ協奏曲のほうが良く書けてると思えるくらいの極めつけの簡素さ。メロディーは美しいけれども、その技巧を駆使する歌手に音楽を余りにもゆだねすぎていること、必ずしも音楽とドラマが一致していないこと。指揮者はベッリーニ特有の歌いまわしに熟知し、また歌手に振り回されることなく音楽を運んでいかなければならないこと(一種の究極の職人芸が必要です。ですからプッチーニのオペラと並んでベッリーニ、ドニゼッティーやロッシーニはじっくりと勉強できない売れっ子指揮者には全く理解の範疇を超えたところにあるオペラになってしまいます。こういった作曲家はシンフォニーで育った指揮者には全くお手上げ状態になってしまうんですね。だからこの作曲家のオペラの録音は大体たたき上げの指揮者がやっていることが多いです。ダニエル・オーレンはその意味でも今日の成功を導いた立役者です。)ざっと考えただけでもこんなにやりたくない理由が見つかってしまいます。
このようなオペラをやるのは、はっきり言って博打を打つような物で、歌手が調子悪いとなったらもうお手上げ状態になってしまう危険のある何とも恐ろしいオペラなんですね。
今日の公演ではなんと言ってもシラグーサのテノールがピカイチ!彼が第一声を発した途端にその明るい華のある歌声に引き込まれてしまいました。しかし聴衆はあまり彼のような声は好きではないようです。何人かはブーイングを発していましたのでどういうことなのか考えさせられました。多分彼のような声はドイツ人には明るすぎて内容のない声に聞こえるのではないでしょうか?ペーターシュライアーとは180度対極にある声質ですからね。アミーナを歌ったシンツィア・フォルテは最初はとてもビブラートがきつく、少々疲れが見えましたが、歌っていくうちに彼女の美観が遺憾なく発揮され始め、シラグーサとの2重唱は2人とも絶妙なピアニッシモを聴かせてくれましたし、なんと言ってもnonn credea で彼女は音楽性と情感、そして技巧が一級であることを示してくれました。
しかしなんと言う脆弱な音楽!本当にすばらしい歌手にめぐり合うことがなければ、このオペラは(ベッリーニは)決して上演されるべきではないと強く思いました。
hakaru matsuoka
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