ベルリンシュターツオパー「コジ・ファン・トゥッテ」
松岡究です。約3週間ぶりにベルリンに戻り、昨日早速国立歌劇場のモーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」を見ました。このプロダクションを見るのは実に3回目です。今回は音楽監督のバレンボイムが指揮するとあって大変楽しみにしていたのですが、彼はキャンセル。代わってカペルマイスターのダン・エッティンガーが指揮しました。勿論彼はすばらしい指揮者なので不満はありませんでしたが、このプロダクションはバレンボイムがプレミエを指揮しているので、少々がっかりでした。
最初にこの「コジ」を見たときの指揮はシモーネ・ヤングでした。はっきり言ってひどかったですね。オーケストラから完全に無視されている感じの音で、音楽に生気がなくアンサンブルもアマチュアのオケかというくらいひどい物でした。(日本のアマオケの方がよほどいい音を出しますよ。)彼女がN響に来た時「あれ?」と思っていたので、ここで答えが判った気がしました。たまたまN響もシュターツオパーもそうだったのかもしれませんが。2回目と3回目がダン・エッティンガーの指揮です。これは昨日もそうでしたが、とても良い正統的な音楽作り。彼の指揮ならば安心して聴くことが出来ます。まだ若いですが腕前はたいしたものだと思います。
このプロダクションのすばらしいところはなんと言っても演出です。「コジ」は正味3時間かかるオペラですし、またフィガロやドン・ジョバンニのように大団円へ向けて音楽が発展して行き聴く者を興奮の坩堝へ巻き込んでいくと言ったオペラではありません。乱暴ですが、言ってしまえばアリアと重唱をつなぎ合わせたようなオペラと言えなくもないのです。それを飽きさせずに聞かせる、見させると言うのは大変難しいのです。(そういう私は鳥取オペラ協会で11月4・5日に「コジ」を振ります。中村敬一さんの演出です。是非いらしてください。)しかし演出のドリス・デリーは最初から最後まで観客を飽きさせずにこのオペラを見せてくれるのです。かいつまんで説明すると、まずグリエルモとフェランドは会社の出張・転勤で2人の恋人と別れることになるんですが、この場面が飛行場のチェックインカウンターとして描かれます。場面奥にはジャンボ機の写真が。それに手を振って別れを惜しむフィオルディリージとドラベラ。勿論それはうそですから、彼ら2人は今度はヒッピーの格好で再度現れます。そして彼女らを口説いていく。(ここでの衣装のコンセプトは1960年代ではないでしょうか。チェックインカウンターにいる職員やスチュワーデスもミニスカートの衣装です。)そしてついには彼女らは彼らの策略に堕ちてしまうのですが、グリエルモとフィオルディリージはベッドインしたと言うことまで描かれています。そこへ再びジャンボ機が現れ2人は大慌て。彼女らはその時にしかったとばかりにほっ被りをしてこそこそと逃げ出そうとするのですが、それが微笑ましくもあり、女性演出家ならではの着眼点が本当に面白いんですね。我々が日ごろ思うようなことの心理描写が手に取るようにわかる演出と言ってもいいかもしれません。ピットの前に通路を作ってそこで演じさせたのも聴衆との距離感を縮めるのにはいいアイデアだったと思います。
今回の歌手たちは2回目に見た歌手たちとほとんど入れ替わっていました。私個人としては2度目に見た歌手たちの方が好みでした。それは今回の歌手たちはビブラートが少々きついので、特に重唱の時にハーモニーがうまく創生されないことが一番の欠点だったように思います。一人一人の力量はかなりあり、それぞれのアリアは聴き応え充分なのですが、如何せん重唱は問題ありなのは大変残念なことでした。
hakaru matsuoka
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コメント
やっぱり以前BSで放送したプロダクションですね。
ヤングはダメでしたか?以前ウィーンでワルキューレを聴いたときはいいなあ、と感じていたのですが・・。私の耳はあてにならない(^_^)。
エッティンガーは去年来日したときに聴きました。いい指揮者ですね。ドイツにはたたき上げのこういう指揮者が沢山いるのでしょうね。
コジは最も苦手なオペラの一つです。必ず飽きちゃいます(^_^)。昨年新国でみたプロダクションはその中でも飽きない方でした。
Staatsoperは小屋がいいですよね。客席の距離も短く一体感があります。大好きな小屋の一つですね。
投稿: kabu | 2006年3月30日 (木) 17時35分